東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)180号 判決 1971年11月25日
原告
(アメリカ合衆国ニューヨーク州)
ストウファー・ケミカル・カンパニー
代理人弁理士
富田一
外一名
被告
特許庁長官
井上武久
指定代理人
岡村信夫
外一名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を九〇日とする。
事実
<前略>
一、特許庁における手続の経緯
原告は、昭和三九年七月三〇日、ローマン体で「VICTOR」の文字を左横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を商標法施行規則第三条別表第一類薬剤(ただし、出願当初は化学品、薬剤及び医療補助品)として、商標登録の出願をしたところ、昭和四一年六月二五日拒絶査定を受けたので、同年一〇月八日審判を請求した(同年審判第七二八五号)。特許庁は、これに対し、昭和四三年八月六日「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決をし、その謄本は同年八月二一日原告に送達された(出訴期間として三箇月を附加)。
二、審決理由の要点
本願商標の構成、登録出願年月日および指定商品は一のとおりである。
オールドローマン体で「Victor」の文字を左横書きしてなり、旧商標法施行規則(大正一〇年農商務省令第三六号。以下同じ。)第一五条第六七類燻料を指定商品とする商標が昭和三二年三月八日登録出願され、同年一二月二日登録されている(登録第五一〇七三〇号商標。以下「引用商標」という。)。
引用商標の指定商品である燻料には蚊除線香、蚊除香、蚊除粉末香等を含み、これらの商品は現行商品区分においては、いずれも第一類薬剤中の農業用または公衆衛生用薬剤のうちに包含されるものであるから、本願商標の指定商品である薬剤は右商品と牴触する。そして、本願商標と引用商標はともに「ビクター」の称呼および「勝利者」の観念を生じ、外観について論及するまでもなく、称呼、観念上彼此相紛らわしい。
したがつて、本願商標は商標法第四条第一一号に該当し、登録することのできないものである。<後略>
理由
本件の特許庁における手続の経緯、本願商標の構成、指定商品、登録出願年月日および審決理由の要点が原告主張のとおりであること、引用商標の構成、指定商品、登録出願である登録年月日が審決認定のとおりであること、本願商標と引用商標が称呼、観念を共通にすること、本願商標の指定商品中の蚊除線香等が引用商標の指定商品中の蚊除線香等と牴触し、本願指定商品中蚊除線香等以外の商品と引用商標の指定商品中の蚊除線香とが、しばしば生産者、流通経路、販売業者を同一にし、相互に類似する商品であることは当事者間に争いがない。右事実によれば、本願商標は商標法第四条第一項第一一号により商標登録を受けるこのができないことが明らかである。
原告は、審決は類似商品審査基準に違反するから違法である旨主張するが、いわゆる審査基準は、特許庁における商標登録出願審査事務の便宜と統一のため定められた内規に過ぎず、法規としての効力を有すると解すべき根拠はないから、仮に審決が類似商品審査基準に違反していても、違法であるとはいえないことは明らかである。
なお、原告は右類似商品審査基準は、商品区分に関する法令の改正に伴い、旧法下に成立した商標権の範囲が不当に拡大される結果を避けるための取扱いを定めたものである旨主張する。しかし、商品の類否は、両商品が生産者、流通経路、販売業者を同一にするか否か等取引の実情によつて定めるべきものであつて、商品の区分に関する法令の定めは商品の類否とは無関係であるから(商標法第六条第二項参照)、右法令の改正によつて改正前の法令に基づいて成立した商標権の侵害となる類似商品)商標法第三七条第一号ないし第五号)の範囲が拡大されたり縮小されたりすることはあり得ない。したがつて、原告の右主張も失当である。
以上に判示したとおり、審決には原告主張の違法はないから、原告の請求を棄却することとし、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第一五八条第二項を適用して主文のとおり判決する。
(服部高顕 滝川叡一 奈良次郎)